【天使の片翼】
砂、砂、砂。
草木一本生えていないその土地のはるか上空を、一羽の鷲が翼を広げて飛んでいた。
獲物を狙うするどい爪と、恐ろしいほどに研ぎ澄まされたくちばし。
悠然と舞うその姿は、幼い雛のそれでも、血気盛んな若いそれとも違う。
すでに、長年の経験と実績を積んだ年長者の風格を備え、
ただそこにいるだけで、思わず気圧されるような気をまとっている。
しかし、犠牲になるべき動物のいないこんな場所では、
彼の持ち合わせる力のすべては、威力を発揮することのできない、ただのぼろに過ぎない。
普段目にする緑に比べ、荒涼たる風景は、彼の瞳にどう映っているのか。
何も考えず、ただ、飄々と空にあるかに見えたが。
ふいに、彼の捕食者としての眼光が、豆粒のように動く獲物の姿を視界の端に捉えた。
ニンゲン。
獲物が大きすぎると判断したのだろうか。
もしくは、腹が満たされていたのかもしれない。
彼は、攻撃体勢をとることはせず、
ただ、大きく楕円を描いたかと思うと、風を味方につけ一直線にどこかへ飛び去っていった。