【天使の片翼】
しばらく呆然としていたが、誰も言葉を発しない。
二人の男の後ろには、小高い丘があり、突き出た岩から時折細かい砂が降っている。
『砂漠で眠らなければならないときは、必ず山沿いに陣を張るんです』
レリーの警告が、はっきりと記憶の底からよみがえる。
ここは、砂漠だ。
“本物”の。
いくら頭の回転が悪い自分にだって、この状況がおかしいことくらいわかる。
遠乗りに連れてこられたわけではあるまい。
「どういうこと?」
レリーの背景となっている男二人に、精一杯鋭い視線を向けて威嚇した。
レリーは俯き、ソードはそっぽをむき、シドはにこにこ笑っている。
誰も答えてくれない沈黙の中で、ファラのお腹が、ぐぅ~と寂しげな声を立てた。
「お前の腹は、能天気なお前にそっくりだな」
呆れたような、ソードの声に、シドがくすりと笑う。
明らかに、馬鹿にされている。
「う、うるさいわね!私は、事情説明を求めてるのよ!」
自分の腹を叱咤したい衝動を何とか抑えて出した大声は、
周囲に拡散して、あっという間に消えていった。