【天使の片翼】
・・何がそんなにおかしいわけ?
シドのあの目つきは、明らかに自分を笑っていたとしか思えない。
「ねぇ、レリー。私、そんなに笑われるようなことしたかしら?」
レリーが片付けていた器同士が、ガタンと派手な音をたてて彼女の手から零れ落ちた。
あぁ、そういうことか、とつぶやいたソードが、先に口を開く。
「シドが笑ったのは、レリーが無理やり連れてこられたとお前が勘違いしてるからさ」
「勘違い?」
「レリーは、最初から僕の仲間だ。お前を誘拐するためのな」
そんなわけがないと否定しようとして、はたと気づいた。
・・レリーのお母様は、カナンの人だ。
自分を好きだと言ってくれたのは、演技だったのだ。
親の代から続く憎しみが、そんな簡単に失われるはずがない。
シドの乾いた笑いの理由が、自分の心を打ちのめした。
人の心とは不思議なものだ。
自分の見たいものしか見えないようにできている。