【天使の片翼】
天と地の間に、一つの影が姿を現した。
よく見れば、その影は一頭の獣と、それにまたがった一人の男だとわかる。
まるで、何もない空間から突如現れたような彼らの後ろには、
今、つけたばかりの足跡が、すでにない。
風によって巻き上げられた細かい砂粒は、彼らの体重によって沈んだ空洞を瞬く間に埋めていく。
どこまでも果てしなく続くかに見えたその風景は、だがすぐに木々に覆われた緑の空間に変化した。
砂漠の中に、突然切り取られたように現れる緑の街は、まるで異空間だ。
見慣れぬものからすれば異様な光景に見える。
そこは、自然の水場を取り囲むようにできた緑の幕に守られた場所で、
100人ほどの住人によって構成されたれっきとした街だ。
「よしよし、ちょっと待てよ。すぐに水をやるからな」
男は、その街に足を踏み入れると、湧き出た水を器にすくい、一口飲んだ後、その獣に分け与えた。
・・さて、連中はまだかな。
どうやら自分の方が先についたらしい。
待ち人がやってくるはずの方角に目を向けたが、残念ながら何も見えない。
男は、木々の間に腰をおろし、幹に背を預けた。