【天使の片翼】
ホウト国とモーリタ国との間に存在するその街は、どちらの国にも属さず、
同時に、どちらの国とも交流のある砂漠の民が住んでいる。
何度もここを訪れているのか、男の姿を見て女たちが熱心に声をかける。
そのたびに、男は愛想を振りまいた。
やがて、男は、天を仰いだ。
約束は、ちょうど太陽が中天に差し掛かる時刻。
それをとっくに過ぎているのに、待ち人が現れる気配はない。
・・くそっ。
手はずさえ整えば、すぐにでもカルレインを殺しに行くのに。
モーリタ国の兵力を借りる話はすでについている。
後は、彼らを案内して、カナンからやってくる兵士を待ち伏せれば終わりだ。
それなのに。
男は苛立ちそのままに立ち上がると、自分がもたれていた木に拳を当てた。
おそらく何かあったのだろう。
砂漠の旅では、予定通りに進めないこともままあるものだ。
男は舌打ちをして、もと来た道を帰り始めた。