【天使の片翼】
その夜は、月明かりのない暗闇だった。
ファラは、天幕から出て砂地に腰をおろすと、空を眺めて嘆息した。
夕刻帰ってきたシドは、水と食料を調達してきたらしい。
ソードもレリーも天幕の中ですでに夢の中だ。
ここにいるのは、わずかこの4人だけ。
見張りがいないのは、自分が逃げることができないとたかをくくっているからだろう。
だが、悔しいがそれは厳然たる事実だった。
星ひとつ瞬きを見せぬこんな空では、方角を知ることすらできない。
よしんば方角がわかったところで、自分が今いる場所がわからない。
どちらの方角へ進めばいいのか、さえ。
そして何より、砂漠の旅が危険であるということは、素人のファラにも簡単に理解できることだ。
・・父様、心配してるかしら。
ソランは、きっと今頃すごい顔で怒ってるかも。
ファラは、はぁ、と息を吐いて、そのまま後ろ向きに倒れた。
吐く息が白い。
背中に感じるのは、硬くて冷たい氷のような感触。