【天使の片翼】
「眠れないのか」
突然、暗闇から自分に放たれた声。
世界はあっさりと線引きされ、個々に再構築された。
「シド」
声の主に語りかけたが、姿は見えない。
足音が近づいたかと思うと、シドはファラの隣に腰をおろし、同じように地面に寝転んだ。
ファラの心臓が、ドクンと一つ大きくはねる。
シドと接する左半身に意識が集中してしまい、ファラは思わず体をひいた。
「砂漠での生活は、一日で降参か?やっぱり一応お姫様だったってわけか?」
「そうじゃない。け、ど」
ファラは、もごもごと口ごもる。
ふ~ん、とシドは意味深な声を上げると、ファラの体に覆いかぶさる。
「な、何するの!」
「続き、教えてやるっていったろ?」
シドの掌が、ファラの額から顎までをなぞるように往復した。
こんなに至近距離にいても、表情がはっきりと見えない。