【天使の片翼】

シドの体温が、ファラの唇に伝わった瞬間、ファラは全力で抵抗した。


「いや!どうしてこんなことするの?

私は、仇の娘なのでしょう?」


「・・なぜそれを知っている」


シドの氷のような声が、ファラの胸を突き刺した。

先ほどまでとはうってかわった硬質の空気。

見えなくても、肌で感じる。


怖い。


ファラは、体の震えを抑えることができず、不覚にも涙がこぼれた。


「シドがまだ10歳にも満たない頃、幼馴染の女の子が父様に殺されたんでしょ?

だから、父様を憎んでるんでしょ?」


シドは、ひどく苛立って、ちっ、と舌打ちした。


「ソードだな」


「誰に聞いたのでも、関係ないよ。本当、なの?」


必死で最後まで言葉をつむごうとするが、涙声の最後はかすれてしまった。

多分、泣いていると気づかれたろう。

シドに悟られたくはないのに。


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