【天使の片翼】
沈黙が闇に広がり、再び世界が一つになりかけたとき、
シドの低い声がファラの鼓膜を揺さぶった。
「本当だ。イリアはお前の父親に殺された」
世界が頭に落ちてきたような気がした。
喉が、熱風を吸い込んだようにからからで、声が出せない。
ソードの話が嘘ではないのだろうと思いつつも、
ひょっとしたら否定するんじゃないかと心の隅で期待していた。
ソードに騙されて、馬鹿だな、と。
「ど、うして」
やっとの思いで、一言だけ口にすると、
シドは、押し黙ったまま、再びファラの隣で仰向けに寝転がった。
どう言おうか考えているのか、それとも言いたくないのか。
しかし、シドは、いつもよりゆっくりと確認するように一語一語言葉を発した。
「俺がまだガキの頃、ノルバス国がカナン国に攻めてきた。
俺たちが住んでいたのは、ちょうど国境のあたりで、イリアの父親は国境を守る兵士だった」
ファラは、すぐ隣に横になるシドに顔を向ける。
人の気配を含んだ暗闇。
シドは、きっと泣きそうな顔をしているに違いない、とファラは思った。