【天使の片翼】

雨の中、濡れることも厭わず、少年は、暗い夜道を一目散にかけていく。

目的の家まで、あと少し。


『イリア!』


少年は、扉を叩くことも忘れ、部屋の中に飛び込んだ。


『シド。一体どうしたの?』


突然の来訪者に、イリアと呼ばれた少女は、水晶のような瞳を大きく開く。


『このへんの大人たちは皆、逃げ出したよ。君を迎えに来たんだ。

早く逃げよう。ノルバス軍がもうそこまで来ているって!』


シドのずぶぬれの手足と吊り上った眉を見て、イリアは、緊迫した状況を察した。


しかし。


『父さんがまだ国境の砦に残ってるわ。

王様の命令で、ノルバス軍をくいとめるって言ってたもの。

父さんを置いて、逃げられない』


イリアの父は、国境の警備の強化のために、数日前から家を留守にしている。

このまま別れてしまっては、連絡を取る手段を失う。



< 292 / 477 >

この作品をシェア

pagetop