【天使の片翼】
何とかなる保証など、どこにもなかった。
本当は、どうして良いか分からなくて、今にも泣き出してしまいそうだった。
けれど、自分が泣き出せば、イリアが不安に思うだろう。
シドは、握り締めた掌から、自分の不安がイリアに悟られぬよう、精一杯の笑顔を作った。
『大丈夫!俺がイリアを守ってやるから』
イリアは、初めて安心したような笑顔を浮かべて、力強く頷いた。
雨風に揺られた梢に、行く手を何度も邪魔されながら、
二人は、なんとか砦までの道を走りぬいた。
思ったよりも、ずいぶん明るい足元に、足を取られても転ばずにすんだ。
だが、それは、月の明かりではなかった。
砦に近づくにつれ、明るさを増すそれは。
『シド!砦が燃えてる!!』
まるで、炎という名の巨大な生物が、天に挑戦するかのように、暴れている。
雨をものともせず、大きく燃え広がるそれを、二人は呆然と眺めた。
ふいに、イリアが我に返り、悲鳴のような声をあげる。
『父さん!』
この燃え盛る炎の中に、父が取り残されているのではないか。
イリアは、吸い込まれるように、猛然と炎の海へ飛び込んだ。
『待って、イリア!』