【天使の片翼】

「それで。

イリアさんは、どうなったの?」


黙りこくったシド。

闇にとけてしまったのではないかと思うほどに、静まり返る。


そこから先は、語ることさえためらわれるくらい悲惨な出来事があったに違いない。

戦を知らない自分には、想像することもできないほどの何かが。


それでも、ファラは、シドの口からそれを語ってほしかった。

当事者の口から、当事者の言葉で。


カルレインに会えば、自分は同じ問いを投げるだろう。

その時、何があったのか、と。

けれど、カルレインの口から語られる言葉は、カルレインの真実だ。

シドのそれとは、違う。


「砦の中は」


言葉をきってから、シドはゆっくりと息を吐いた。


「兵士の死体がたくさん転がっていて、まるで地獄のようだった」


ファラの体が、一瞬にして氷のように強張る。

手足を動かすことさえできない。


疾風の黒鷲。


それは、自分の知らない父のもう一つの顔。





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