【天使の片翼】

カルレインの髪と同じ、漆黒の闇。


いつもは、こうして夜のはざまに包まれると落ち着いた気分になるのに。

胸の中を、ざらざらとした虫が這い回っているような気がして、ファラはぞくりとした。


「俺たちはイリアの父を、探し回った。

戦いは、多分とっくに決着がついていたんだろう。

生きている兵士には、まったく行き会わなかった。


--それなのに」


シドは、曇った灰色の夜空の中に星を探すように、目を眇めた。



・・イリア。



こんな風に、穏やかに話すつもりなどなかったのに、

どうして自分は、落ち着いて会話をしているのか。

殺す直前に、全てをぶつけてやろうと思っていた。

憎しみを、怒りを、抑えきれない魂の叫びを。



・・これではまるで、たんなる思い出話をしているみたいじゃないか。



シドは、自分の中に残った甘さを自覚して、自嘲した。

ずっと、誰かにきいてほしかった。

その相手に、仇の娘を選ぶとは。






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