【天使の片翼】
嬉しそうなファラの様子に構うこともなく、カルレインとシドは、無言で睨みあう。
雨足は、強まることも弱まることもなく、ただ惰性で降り続いているようだ。
「ほら、シド。早くつかまって!」
これで何とか助けられる、そう思ったファラの希望を打ち砕くように、
シドは自分の真横に伸ばされた綱を一瞥しただけで、それに手をかけようとはしない。
「ふん。確実に俺に止めを刺さないと、枕を高くして眠れないのか」
とぎれとぎれに聞こえてくるシドの声は、何を言っているのかよくわからない。
だが、助けられる気がないのだけは、はっきりと見て取れた。
切羽詰った表情でシドを見つめていた瞳が、次第に大きく見開かれていく。
怒りの色に染まりながら。
「この、馬鹿シド~!!」
ファラの瞳が限界までめいいっぱい開かれた直後、耳をつんざくような声が辺りに広がった。
「うっ!」
罵倒された本人が、驚いた瞬間につり合いを崩し、体がわずかにずり落ちる。
「あんたね!甘えるのも大概にしなさいよ!!」
ファラの怒号は、やむ気配がない。
この雨に、勢いよく流され始めた砂漠の砂のように。