【天使の片翼】
湿った空気を打ち払うような陽気な笑い声。
その場の誰もが、声の主を凝視した。
今にも風にさらわれそうな頼りない紙切れのように、岩にへばりついているシドに。
・・ほんと、あんたには参るな。お姫様。
どうやったら、そんなにまっすぐに育つんだか。
自分を見つめる澄んだ瞳は、大切な思い出の少女を否応なく連想させる。
急速に失われる握力に、シドは天を仰いだ。
このまま死ねば、イリアは自分を迎え入れてくれるだろうか。
だが、シドはすぐにその考えを否定した。
イリアと同じ場所に行くには、すでに自分はたくさんの命を奪いすぎた。
それは、ただ単に生き延びるためだけではなく、
カルレインを剣で討ち果たす目的のため。
いつの間にか、ソードとレリーが、ファラの隣に並んで立っていた。
レリーが解いたのだろう。自由の身になったソードが、声を発した。
「シド!さっさと登って来い!
お前、僕と一緒にこいつに痛い目を見せてやると約束しただろう!」
ソードの細い人指し指が差す相手は、もちろんカルレインだ。
カルレインと目が合ったレリーは、居心地悪そうに目を伏せた。