【天使の片翼】
ソードの言葉にかぶさるように、ファラが声を張り上げる。
「そうよ!さっさと登ってきて。
もう一度勝負して、きっぱり、父様に負ければいいんだわ。
そうすれば、復讐なんて馬鹿な真似しようって気にならないはずだもの」
「なんだと?シドがお前の父に負けるわけないだろう!
僕だって、剣を寄こせばこいつを負かしてやる!」
ファラとソードによる代理戦争が勃発しそうな気配にため息をついて、カルレインが口を挟んだ。
「どうだ、シド。いったん登って来い。
でないと、お前は俺に負けるのが怖くて、自ら川に飛び込んで溺れたということになるぞ」
大げさに声を出しているわけでもないのに、カルレインの低い声は、シドの耳によく届いた。
威風堂々。
全身が濡れ鼠のようになっているのに、カルレインからは王者の風格が漂う。
決して負けぬという自負と、それに見合うだけの実力を伴っているからだろう。
・・すまない、イリア。
シドは、最後の力を振り絞って、自分を見下ろしているいくつもの顔を見上げた。