【天使の片翼】
槍が飛んでくるように、たくさんの雨粒が上を向いたシドの瞳に容赦なくうちつける。
シドの右手が岩を掴んだまま、左手が綱にかかった。
その様子を見て、全員が胸をなでおろす。
「カルレイン王。あんたに尋ねたいことがある」
その状態のまま、シドは、カルレインに凛とした声音を向けた。
いくぶんか、丁寧な口調で。
「なんだ」
眉間にしわを寄せて、カルレインは腕組みをしたまま応えた。
「イリアのことを覚えているか。
カナンとノルバスの国境の塔で、あんたが殺した8歳の娘のことだ」
皆の視線が、一斉にカルレインに注がれる。
だが、躊躇することなく、カルレインは即答した。
「あぁ、覚えている。
お前の体と、俺の剣の間に割り込んできた娘だ」
「本当に?本当に覚えているのか?」
「覚えている。今日のように、雨が降っていた・・・」
灰色の空を眺めるカルレインの表情をよむことはできなかったが、
シドは、カルレインの言葉が嘘ではないと思えた。