【天使の片翼】
そうか、と低くつぶやき、シドはなおも言葉を続ける。
「では、その娘を殺した事を後悔しているか。
もう二度と同じ事を繰り返さないと誓えるか」
シドの言葉に、ファラはごくりとつばを飲みこんだ。
後悔している、カルレインなら、そう答えると固く信じて。
だが。
「いや、していない。
もし、もう一度同じことがあれば、俺はためらわず剣を振るうだろう」
カルレインの放った台詞は、ファラをどん底に突き落とすものだった。
「つまり、あんたは、少しも反省をしていないってことだな?」
「いや、それは少し違う。
俺がもう少し早くお前たちの気配に気づいていれば、避けられたことだった。
だから、反省というなら、そのことについてだ。
だが、後悔はしていない。
あの時、俺が剣を振っていなければ、俺はお前に殺されていただろう。
違うか?」
カルレインに問いかけられて、シドは言葉を失った。
それは、自分がもっとも後悔している、直視したくない現実だから。
そう。自分がカルレインに殺意など抱かなければ、たとえ捕虜になったとしても、イリアを失うことはなかったかもしれない。