【天使の片翼】
「なっ!何言ってるの!!」
ファラが、半べそをかきながら、怒鳴りつけた。
恥ずかしさ以上に、この胸の嫌などきどきを早く何とかしなくては。
しかし、残酷な現実は、もうすぐ目の前に迫っていた。
「俺は、後悔してる。お前を抱いておけば良かった。
そうすれば、お前は俺の事を忘れなかっただろうに」
口の端をつりあげて、いつものように、にやりと笑うシド。
「やめて!おかしなこと言わないで!」
「じゃあな!」
最後に、カルレインを一瞥して、シドは両手を広げた。
ゆっくりと。時が止まったように、ゆっくりと。
ファラの瞳に映るシドの体が小さくなっていく。
「シドーーー!!!」
悲鳴のようなファラの悲痛な声が、辺りに拡散してあっという間にとけていく。
ソードはうめき声をもらしながら震え、レリーは両手で顔を覆った。
ソランは、静かに目を閉じ、
そしてカルレインは、シドの体が泥の中を流れて小さくなるのを見ていた。
いつまでも。
誰もがシドの姿に心を奪われ、頭上高くに舞い上がった獣のことなど、すっかり眼中になかった。