【天使の片翼】

木々の匂いが感じられる風の心地よさは、砂漠のそれとは段違いだ。

風にたなびく髪を掌で撫で付けながら、ファラは窓から外を眺めた。


一面の緑。

青い空。

たなびく雲。


今まで、当たり前だと思っていた自分には見慣れた景色。


それでも、いったん外から自分の国を眺めると、

それが、当たり前のことではないことがよくわかる。


カナンという、自分の生まれ故郷に戻ってからは、その大切さが身にしみて、

毎日のように、この美しい風景を心に焼き付けながら、

その恵みに感謝をすることが、いつの間にか自然とファラの日課になった。


「お茶が入りましたよ」


「ありがとう、レリー」


椅子に腰掛けて、レリーの入れてくれたお茶をすするだけで、

それが、どんな素晴らしい奇跡であるのかを実感できる。


生きていること。


そう、自分は、息をしているのだ。


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