【天使の片翼】
それからのことを、ファラはあまり覚えていない。
どうやって、砂漠を渡り、街まで戻ってきたのか。
日常のこまごました事を一人でこなしていたのかどうかさえうろ覚えだ。
だが、日がたつにつれ、少なくとも体が回復する頃には、
記憶もしっかりと戻り日常の生活に支障なく暮らせるようになった。
間もなく、ソードとの婚約を正式に解消し、カナンへ帰国することになった。
挨拶に伺ったときのホウト国王ルビドの様子が、若干おかしい気もしたが、
それ以上に、気落ちしていたので、特に追求する気もおきなかった。
後で小耳に挟んだ話では、ルビドはモーリタ国の当主と組んでカナン国に戦を仕掛けるつもりだったらしい。
ところが、モーリタ国の国王が代替わりしたため、途中で計画を断念したのだそうだ。
モーリタは政情不安定な国で、何人もの王位を狙う人物が小競り合いを繰り返しており、
カルレインが裏で手を回し、新しい国王をたてた、
などというまことしやかな噂も流れた。
しかし、ファラはそれが真実かどうか確かめはしなかった。
それを知ったところで、シドが戻ってこない事を、よくわかっていたから。