【天使の片翼】
部屋の隅から流れた風が、リリティスの髪をそっと揺らす。
考えたのは、一瞬だった。
「わかりました。それが、あの子達の役に立つなら、そういたします」
顔を上げて、はっきりと告げるリリティスの瞳に迷いはない。
その強く美しい瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えて、カルレインは笑んだ。
「ありがとう、リリティス」
女は、どんなときにも強い生き物だと、カルレインは改めて思う。
それは、儚げに見える自分の妻も例外ではなく。
そんな女の強さに、男は惹かれてしまうのかもしれない。
「今日は、具合はどうだ?」
ずっと留守にしたうえ、帰ってからも、たまった政務処理におわれて、
今日までゆっくり話もできなかった。
しばらく見ない間に、リリティスの体が、丸みを帯びたのがわかる。
「もう大丈夫ですわ。安定期に入ったから、つわりもおさまりましたし」
「そうか、それは良かった」
やけに弾んだ声で返事をするカルレインを、リリティスは不思議そうに眺めた。