【天使の片翼】

部屋の隅から流れた風が、リリティスの髪をそっと揺らす。

考えたのは、一瞬だった。


「わかりました。それが、あの子達の役に立つなら、そういたします」


顔を上げて、はっきりと告げるリリティスの瞳に迷いはない。

その強く美しい瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えて、カルレインは笑んだ。


「ありがとう、リリティス」


女は、どんなときにも強い生き物だと、カルレインは改めて思う。

それは、儚げに見える自分の妻も例外ではなく。

そんな女の強さに、男は惹かれてしまうのかもしれない。


「今日は、具合はどうだ?」


ずっと留守にしたうえ、帰ってからも、たまった政務処理におわれて、

今日までゆっくり話もできなかった。

しばらく見ない間に、リリティスの体が、丸みを帯びたのがわかる。


「もう大丈夫ですわ。安定期に入ったから、つわりもおさまりましたし」


「そうか、それは良かった」


やけに弾んだ声で返事をするカルレインを、リリティスは不思議そうに眺めた。



< 352 / 477 >

この作品をシェア

pagetop