【天使の片翼】
露台の柵にもたれて、ソランはきらきらと宝石箱のように光る夜空を見上げた。
「その話を聞いたってことは、ソード王子の話も聞いたのか?」
「うん。レリーが言ってた。
自分がソードを助けてほしいって、父様に頼んだんだって」
まもなくホウト国に王位争いの時代がやってくる。
そして、ソードが王位を継げる確率はきわめて低い。
争いに負ければ、よくて追放。悪くすれば、命を持っていかれる危険もある。
いち早くそれを察したレリーは、カルレインに助力を請うた。
手を貸してくれるかどうか、危険な賭けであったが、レリーはそれに勝ったのだ。
ソードの遊学は、おそらく一生続くに違いない。
他国にいる末弟の王子など、彼らにはどうでも良いはずだ。
「何人かの王子たちは、毒殺されかかったり不審な事故にあったりしているんだって。
ソードも、食事は毎回シドが毒見をしてたんだそうよ」
言い終わらないうちに、しまった、とファラは思った。
出すつもりのなかった人物の名前を、話の流れでうっかり口にしてしまった。
・・だめ。泣かないって決めたんだから。
昼間はなんとかなる。
けれど、夜は駄目だ。
シドと会った、何度かの夜を思い出してしまう。
熱い抱擁も。柔らかい唇も。
まるで、昨日のことのように。