【天使の片翼】
こんなにも明るい夜では、うっかり涙を流したらすぐにばれてしまいそうだ。
ファラは、歪んだ顔を見られないように、ソランに背を向けた。
「さて、私、そろそろ寝るわね。お休みなさい、ソラン」
大きく一歩踏み出した刹那。
「待てよ、ファラ」
低い、力のある声が、ファラを呼び止めた。
思わず、体がびくりと震える。
「待てよ。まだ、話が途中だ」
ほんの少し柔らか味を帯びた声音が、ファラの足を床へと縫いとめた。
「何?」
背を向けたまま、返事をする。わずかにかすれた声は、何とかごまかせたはずだ。
けれど。
「我慢するなよ」
いきなり、急所を突かれた。