【天使の片翼】

「別に、我慢なんて」


「してるだろ?なんで泣かないんだ。

カルレイン様やリリティス様の前ならともかく、僕の前でまで我慢するなよ!」


苛立ちをあらわにして、しかし、わずかな寂しさもにじませて。

ソランは、声を張り上げた。


無言のまま、ファラの肩だけが細かく震える。

その小さく細い肩を抱きしめたい衝動を抑えて、ソランは小さく続けた。


「僕は、ファラが大事なんだ。

だから、ファラが一人で泣いているなんて、許せない。


シドがどんなやつだろうと、たとえあいつがカルレイン様を殺していたとしても、

あいつのために泣くのが悪いことなわけがないだろう?

たとえ、誰かがファラの事を非難したとしても、僕だけはファラの味方でいるから」


静かな夜の闇に、諭すようなソランの言葉が吸い込まれていく。

それは、誰にも言えなくて、でも誰かに聞いてほしくて仕方がなかったファラの心そのものだ。


がまんするなよ、ともう一度、ソランはつぶやいた。


と。




< 359 / 477 >

この作品をシェア

pagetop