【天使の片翼】
「別に、我慢なんて」
「してるだろ?なんで泣かないんだ。
カルレイン様やリリティス様の前ならともかく、僕の前でまで我慢するなよ!」
苛立ちをあらわにして、しかし、わずかな寂しさもにじませて。
ソランは、声を張り上げた。
無言のまま、ファラの肩だけが細かく震える。
その小さく細い肩を抱きしめたい衝動を抑えて、ソランは小さく続けた。
「僕は、ファラが大事なんだ。
だから、ファラが一人で泣いているなんて、許せない。
シドがどんなやつだろうと、たとえあいつがカルレイン様を殺していたとしても、
あいつのために泣くのが悪いことなわけがないだろう?
たとえ、誰かがファラの事を非難したとしても、僕だけはファラの味方でいるから」
静かな夜の闇に、諭すようなソランの言葉が吸い込まれていく。
それは、誰にも言えなくて、でも誰かに聞いてほしくて仕方がなかったファラの心そのものだ。
がまんするなよ、ともう一度、ソランはつぶやいた。
と。