【天使の片翼】
そんな様子を黙ってみていた侍女が、リリティスに水を渡しながらはりのある大きな声を出した。
「まったく、辛気臭い!
これからおめでたいことがあるっていうのに、まったく。
ソラン!お前、リリティス様のために歌でも歌ってごらん」
ソランに歌を強要したのは、いかにも侍女頭といった雰囲気の漂う、ふっくらとした中年の女性。
「か、母さん!
こんなところで、なんてこと言うんだよ」
無茶苦茶にもほどがある。
ソランがおろおろしていると、ぷっ、と小さくリリティスが吹き出した。
「もう、ルシルったら。笑わせないでちょうだい。
水がこぼれてしまったじゃない。それになんだか間違って、いきんでしまいそうだわ」
「だってねぇ。役に立たない連中が、雁首そろえて」
ルシルは部屋の中をぐるりと見渡すと、最後にカルレインをちらりと見た。
「なんだ?」
何か言いたげなルシルに、カルレインが眉を上げた。