【天使の片翼】
誰もが固唾を呑んで見守る中、ルシルは寝台の上にあがると、
苦しむリリティスに声をかけた。
「リリティス様。今少しの辛抱ですよ。
赤ん坊も頑張っているのです。あなたも頑張らなければ」
リリティスの首が、力なく上下に動く。
すでに、相当な体力を消耗したようだ。
では、いきますよ、と産婆が合図したとき、
待って!という言葉とともに、
涙目になったファラが、リリティスの腹に手をかけたルシルの腕を掴んだ。
「ねぇ、待ってよ。お腹を押すなんて、そんなことして大丈夫なの?
赤ちゃんが、つぶれてしまわないの?」
ルシルの代わりに、産婆が返事をする。
「ファラ様。一刻を争うのです。
このままでは赤ん坊ばかりか」
その先を、産婆は口にはしなかったが、誰もがその意味を理解した。
--このままでは、リリティスまでもが命を落とす。