【天使の片翼】
ファラの手を、別の腕が優しく掴んだ。
柔らかな声が、ファラの鼓膜にゆっくりとしみこんでいく。
「大丈夫。きっとうまくいく。
僕の母さんを信じて。大丈夫だから」
「ソラン・・・」
いつの間にかファラの隣に来ていたソランに腕をひかれ、ファラはルシルから離れた。
「さぁ、ではいきますよ。1、2、3!いきんで!」
産婆の調子に合わせて、ルシルがリリティスのお腹に全体重をかける。
「ああああぁ~っ!」
リリティスの悲鳴が、部屋中に響き渡る。
だが。
「もう一度、頑張って!はい、1、2、3!」
部屋の外にまで広がる叫び声に、誰もが体を硬くした。
「リリティス!頼む、頑張ってくれ!」
目の前にいながら、何の手助けもできない自分を、
カルレインは心から情けなく思った。
それから何回か同じことが繰り返されたが、赤ん坊は産まれてはこない。