【天使の片翼】
「おめでとうございます!
姫君の誕生でございますよ!」
産婆の声に、誰も返事をしない。
魂の抜け殻のように、皆一様に脱力している。
赤ん坊の首には、2重にへその緒が巻き付いていた。
だが、影響もないらしく、元気に泣き声をあげている。
産婆だけが、てきぱきとその処置を終えると、
産湯を使って丁寧に赤ん坊の汚れを落とし始めた。
「リリティス様~!」
寝台の上のルシルが、泣き崩れてリリティスの体に抱きつくと、
止まっていたそれぞれの時間が、ようやく動きだした。
「リリティス。良くやったな」
「・・レイン、さ、ま」
ほとんど聞き取れないほどの声で、リリティスはカルレインに微笑む。
「ほら皆様、姫君でございますよ」
きれいな衣に着替えて、小さな赤ん坊がリリティスの横に並べられた。
「ファラ。抱、て、あげ、て?」
リリティスは、自分が抱きしめる前に、ファラに抱かせてやりたかった。
彼女の、妹を。