【天使の片翼】
穏やかな顔のソードを見て、レリーは晴れ渡った空のように嬉しそうに笑った。
とたんに、ソードの心臓が、どくんと跳ねる。
ひょっとしたら、これが自分の求めていたものなのかもしれない。
近くにありすぎて、当たり前すぎて、目に入らなかった。
この笑顔が・・幸せという形そのもの。
「愚かだな、僕は」
誰もいなくなった部屋で、ソードはひとりごちた。
血が繋がらないのに、かわいがられているファラに嫉妬し、
愛されることを約束されて産まれて来た赤ん坊を妬み、
そんな彼らと比べて、またもや自分の境遇を嘆くところだった。
影になってしまうのが嫌で、真っ暗な闇の中では自分の存在が消えてしまいそうな気がして、
いつでも陽の下を歩いていないと不安だった。
けれどレリーなら、自分が暗闇にたたずんでいても見つけて手を差し伸べてくれるに違いない。
「ありがとう、レリー」
ソードの口からこぼれた言葉は、誰に拾われることもなく寝台の片隅に落ちた。
いまだ幼い少年の心に芽生えた、レリーへの感情に、
はっきりとした名前を付けられるようになるまでには、もうしばらくの時間を必要としそうだった。