【天使の片翼】
ケータと呼ばれるその森には、その日も暖かな緑から柔らかな木漏れ日が降り注いでいた。
「では我らが愛する妹、ファラの16歳の誕生日を祝して、乾杯~!」
エリシオンの音頭で、みんなが口々におめでとう、と声に出して杯を傾ける。
大々的なのものではなく、身内でのお祝いが良いと言い出したのは、ファラ本人だ。
さらには、催す場所についての提案も付け加えられた。
「本当にファラは楽しい事を考えるのが上手ね」
リリティスが微笑みかけると、ファラは嬉しそうに胸を張った。
「でしょ?一度でいいから、この森の中でお祝いしてほしかったの。
小さい頃からよく遊んだし、母様にとっても思い出がたくさんある場所なのでしょう?」
そうね、と言いながらリリティスは机の反対側に座るカルレインに視線をやった。
まだ歩けない子どもを抱えたカルレインの周りは、兄弟たちが取り囲み、新しく加わった妹の取り合いをしている。
「ねぇ、母様」
笑いあうカルレインたちから視線を動かさず、ファラはリリティスに話しかけた。
「私を育ててくれて、ありがとう」
はっとしたリリティスがファラに目を向けると、ファラは少し照れたような笑顔を返した。