【天使の片翼】
隣でふんわりと自分を抱きとめる腕のぬくもりを感じて、ファラは目を閉じた。
「皆を幸せにしなきゃ、ってずっと思ってたの。
本当の、父様と母様の子供の代わりに」
毎年、カルレインとリリティスが決まっていなくなる日がある。
それにファラが気づいたのは、いつ頃のことだろう。
そしてそれが、彼らの子供の命日だと知ったのは。
「私たちは、あなたを誰かの代わりだなんて思ったことはないわ」
リリティスのさらさらとした髪が、ファラの頬をくすぐる。
幼いときから、泣いているといつでもこうして抱き寄せてくれた。
甘い芳香を放つ花の匂いに虫たちが抗えぬように、
リリティスの声は聞くものの心に染み入ってくる。
もちろん、ファラの心の中にも。
「子供が死んだときは、それは悲しかった。口では言い表せないほどにね。
でもそれは、仕方のないことなの。人は、誰でも死ぬのよ。
大事なのはどんな風に生きて、どんな風に死ぬか。
あなたは、あなたの生き方を見つけなくては」