【天使の片翼】
きゃ~!という悲鳴とともに、その場は騒然となった。
両腕を空へ向かって伸ばし、娘をあやしていたカルレインめがけて、
一本の矢が射られたからだ。
傍で護衛をしていたマーズレンがすばやく反応して剣を取り出し、
鋭い殺意をむき出しにしたその矢を真っ二つに叩き折った。
「曲者だ!王をお守りしろ!」
すぐさま兵士たちが周りを取り囲み、警戒態勢をとる。
さほど離れていない場所で、馬のいななく声が聞こえた。
「エリシオン。あとを頼む。
来い!マーズレン!」
おそらくは、暗殺者が逃げていく音だろう。馬のひづめの音が小さく響く。
自らすばやく馬に飛び乗ると、カルレインは矢が射られた方角目指して駆け出そうと動いた。
その時、レリーの悲鳴のような声が、辺りを包んだ。
「カルレイン様!ファラ様がいらっしゃいません!」
「なんだと?」
「さっき、少し散歩してくるとおっしゃって」
ちっ、とカルレインが舌打ちをした瞬間、一頭の馬が風のようにカルレインの横を通り過ぎた。
「待て、ソラン!」
すでに小さくなったソランの背中に、カルレインの声は届かなかった。