【天使の片翼】

足で水面を蹴りながら、少しずつ進んでいくと、自分の動きにあわせて波立っていく。

ばしゃばしゃと立ちどまって足を上げると、また違った模様が水面に描かれる。



・・ふふ。なんでこんなのが面白いんだろう。



自分の動きを受けて、水がさまざまに変化する様子を見ていると少しも飽きない。

不意に、人とのかかわりは、こんな感じなのかもしれないと、ファラは思った。


誰かが動けば、波が現れる。

違う動きをすれば、それは別の形に変わっていく。

その影響を受けて、また違った波が出現する。

一緒になって大きな波になることもあれば、ぶつかり合って打ち消されることもある。


しばらくそうして遊んでから、ファラは時間の経過に気づいた。

そろそろ皆が心配しているかもしれない。


戻ろうかな、とファラが水からあがろうとしたとき、鳥たちが木々の間から騒がしく一斉に飛び立った。

どこかから激しい馬の足音が聞こえてくる。

それは、だんだんと大きく響いてきた。



・・何かあったのかしら。父様でもソランでもないわ。



ひづめの音を聞けば、騎手がわかる。

それは、ファラの知る誰の音とも違っていた。





< 397 / 477 >

この作品をシェア

pagetop