【天使の片翼】
足で水面を蹴りながら、少しずつ進んでいくと、自分の動きにあわせて波立っていく。
ばしゃばしゃと立ちどまって足を上げると、また違った模様が水面に描かれる。
・・ふふ。なんでこんなのが面白いんだろう。
自分の動きを受けて、水がさまざまに変化する様子を見ていると少しも飽きない。
不意に、人とのかかわりは、こんな感じなのかもしれないと、ファラは思った。
誰かが動けば、波が現れる。
違う動きをすれば、それは別の形に変わっていく。
その影響を受けて、また違った波が出現する。
一緒になって大きな波になることもあれば、ぶつかり合って打ち消されることもある。
しばらくそうして遊んでから、ファラは時間の経過に気づいた。
そろそろ皆が心配しているかもしれない。
戻ろうかな、とファラが水からあがろうとしたとき、鳥たちが木々の間から騒がしく一斉に飛び立った。
どこかから激しい馬の足音が聞こえてくる。
それは、だんだんと大きく響いてきた。
・・何かあったのかしら。父様でもソランでもないわ。
ひづめの音を聞けば、騎手がわかる。
それは、ファラの知る誰の音とも違っていた。