【天使の片翼】

急いで水辺から上がると、濡れたままの足で靴を履きその足音の方へと近づく。

よく耳を済ませると、どうも相当な速さで駆けてくる。

しかも、そのずっと後ろから、いくつもの音が追いかけるようにこちらへ向かっているようだ。



・・おかしいわ。こんなところで、全力で駆けるなんて。



馬で駆けられるくらいの広さはあっても、何もない平原と違い、ここは森の中だ。

しかも、その音は、道として整備されているような場所からではなく、

自然に木々の生えている辺りからやってくる。


木の根や梢が邪魔をして、乗馬をするには最悪の状態のはずだ。

そんな場所で全力で馬を走らせるということは、この森のことを良く知らないか、

あるいは、わざわざそういう場所を選んで走っているかのどちらかだ。

例えば、後ろから矢で狙われないようにするために、とか。


ファラの頭を嫌な予感が掠めた。

リリティスが襲われた話は、後になって聞いて知っている。

もしや。


腰に手をやるが、剣は持っていない。


どうすればいいのか。


そう思ったとき、目の前の草むらを跳び越すようにして一頭の馬が現れた。

馬上の人物と目が合った瞬間、相手がすらりと剣を抜いた。


< 398 / 477 >

この作品をシェア

pagetop