【天使の片翼】
馬の進行方向にいたせいで、瞬きする間もなく男の体がファラに迫る。
馬の速度に勝てるはずがない。
身を翻したが、そこまでだった。
・・だめだ、斬られる!
目の前に鈍い光がちらついたのが、やけにはっきりと認識できる。
死を覚悟して目を閉じかけたその時、
男の脇から黒い影が飛び出して、ファラの体がふわりと宙に浮いた。
同時に、ぐっ、といううめき声がしたかと思うと、ファラの目の前が赤く染まる。
「ソラン!」
いったんは馬上にあったかと思われた二人の体は、そのまま落馬して地面に叩きつけられた。
「きゃあ!」
振動はあったが、たいした痛みを感じない。
それが、ソランの体を下敷きにしたせいだと気づくのにさほどの時間は要さなかった。
ビュッ、という風を切る音がして、ソランを斬った男の悲鳴があたりに響いたが、
すでにファラの耳には届かなかった。
「ソラン!しっかりして、ソラン!」