【天使の片翼】

ソランの体を揺すって、ファラは狂ったように彼の名前を叫び続けた。

何かがべっとりと手に纏わりつく感触がする。

恐ろしくて、ファラはそれを受け入れることができないでいた。


生暖かい感触。

それはおそらく赤い色をしているのだろう。


全身が総毛立ち、感覚を失う。

自分の心臓の動きが細部まではっきりと意識されて、ファラはぶるぶると震えた。


「ソラン!」


追いついたカルレインが、ファラの隣に跪く。

その後ろから来たマーズレンも、自分の息子の状態を一目見て蒼白になった。


「すぐに城に連れて帰る!マーズレン、馬車を用意しろ」


カルレインは他の兵士に倒れた男も連れてくるように命じると、

ソランの衣を引き裂いて止血を始めた。


「父様。大丈夫だよね。ソラン、助かるよね?」


「心配するな。きっと助かる。とにかく止血だ」


カルレインの声に我にかえると、ファラは自分の衣の裾をびりびりと破り、ソランの傷口を覆った。

ソランの背中は、ぱっくりと割れていて大量に出血している。

野茨の刺繍が、あっという間に赤く染まった。


< 400 / 477 >

この作品をシェア

pagetop