【天使の片翼】
ソランの体を揺すって、ファラは狂ったように彼の名前を叫び続けた。
何かがべっとりと手に纏わりつく感触がする。
恐ろしくて、ファラはそれを受け入れることができないでいた。
生暖かい感触。
それはおそらく赤い色をしているのだろう。
全身が総毛立ち、感覚を失う。
自分の心臓の動きが細部まではっきりと意識されて、ファラはぶるぶると震えた。
「ソラン!」
追いついたカルレインが、ファラの隣に跪く。
その後ろから来たマーズレンも、自分の息子の状態を一目見て蒼白になった。
「すぐに城に連れて帰る!マーズレン、馬車を用意しろ」
カルレインは他の兵士に倒れた男も連れてくるように命じると、
ソランの衣を引き裂いて止血を始めた。
「父様。大丈夫だよね。ソラン、助かるよね?」
「心配するな。きっと助かる。とにかく止血だ」
カルレインの声に我にかえると、ファラは自分の衣の裾をびりびりと破り、ソランの傷口を覆った。
ソランの背中は、ぱっくりと割れていて大量に出血している。
野茨の刺繍が、あっという間に赤く染まった。