【天使の片翼】
穏やかな瞳が、ファラを見つめていた。
「知って、る」
「え?」
「知っ、てるよ。ファラの、こ、となら、僕は、何でも」
極上の笑みを浮かべるソランに、ファラの胸がうるさく騒ぐ。
周囲の雑踏も聞こえず、ファラは体中が熱くなるのを押さえられないでいた。
やがて、ソランはゆっくりと瞳を閉じた。
「ソラン!」
「大丈夫。気を失っただけだ。お前まで気絶するなよ。余計な人手が必要になる」
カルレインの冷静な声がファラを現実へと引き戻す。
「父様・・・」
「安心しろ。
せっかくお前が一大決心をして告白したのに、ソランだってこのままじゃ死んでも死にきれんだろうが」
にやりと口の端を吊り上げるカルレインの顔を見て、ファラは少しだけ気が楽になった。
血まみれの大きな掌で、カルレインは泣きはらした娘の頭を一撫でする。
・・死ぬんじゃないぞ、ソラン。
カルレインは上衣を脱ぐと、急激に体温の下がるソランの体に巻きつけた。
一行が馬車で去っていくと、やがて小鳥のさえずりが戻り、
森はいつもの平和を取り戻した。