【天使の片翼】
血のように赤い夕日が、部屋の中の何もかもを紅色に染め上げる。
その赤に彩られたカルレインは、机の上に両足を投げ出して腕を組んでいた。
目を閉じて、エリシオンの報告に耳を傾ける。
カルレインに見えていないとわかっていたが、エリシオンは一礼した。
「父上を狙った男は助かりませんでした。
あたりを調べましたが、潜んでいたのはやつ一人のようです。
てっきり、結果を報告する者がいると思っていたのですが・・・。
それから矢ですが、先端に毒が塗ってありました」
「なるほどな。かすればいいというわけか」
カルレインの口元は弧を描いているが、閉じられた瞳からはどんな感情も読み取れない。
エリシオンは、父の考えが読めないでいた。
「やはり、黒幕はルビド王でしょうか」
ひょっとしたら、戦になるのだろうか。
エリシオンは、わずかに声を潜めた。
「だろうな。正面から俺を狙う度胸はないが、どうにも気がおさまらないんだろうよ。
失敗したときに自分の仕業だと発覚しないよう、わざと一人でやらせたんだろう。
リリティスを狙ったときと同じやり口だ」