【天使の片翼】
そう言ったきり、カルレインは何の指示も出さず口を閉じた。
エリシオンはカルレインの後ろに直立不動で立っているマーズレンをちらりと見てから、カルレインに視線を戻す。
「ソランの意識はまだ戻りません。かなり出血したようで、今夜が峠ではないかと」
ソランの父であるマーズレンはカルレインの警護を理由に息子のもとへは行かず、この場所にいる。
律儀な性格のマーズレンからすれば、それは仕方のないことなのかもしれない。
表向き、ソランがファラをかばって怪我を負うのは当然といった趣旨の発言をしていた。
代わりに、ソランの母である侍女のルシルが、つきっきりで看病している。
もちろん、馬車の中でも決してソランから離れようとしなかったファラも一緒だ。
そうか、とだけ、カルレインはつぶやいた。
「どうなさるおつもりですか?」
慎重に、エリシオンは尋ねた。
「どう、とは?」
「王を狙ったものに対して、どうけじめをつけられるおつもりなのですか?」
疾風の黒鷲と異名をとったカルレインなら、答えは一つだろう、とマーズレンは思った。
低い角度から差し込む光が目にしみて、マーズレンは目を眇めたまま痛む胃に手をやった。