【天使の片翼】
城の中が暗いのは、夜になったせいだけではないだろう。
ソランが眠る寝台の横で、揺れる灯りの炎がファラの顔を映し出している。
疲れきった顔。
たった一日で、何歳も老け込んでしまったようだ。
「ソラン。早く起きてよ」
毛布からはみ出したソランの片手をそっと握り、ファラはソランの顔を眺める。
すやすやと眠っているソランの顔に苦しみは見えない。
ファラはソランの手から片方の手をはずすと、ソランの額に張り付いた前髪をかきあげた。
そのまま頬を撫で、顎の方へと滑らせたとき、ソランの古い傷が指に触れた。
「この時も、ソランが助けてくれたんだよね」
それは、かなり薄く、顎の真下にあるため、普段は全く見えない。
ソランの両親は、それが彼の不注意で負った怪我だと、今も信じて疑っていない。
けれど、本当はそうではないのだ。
ファラの目に過去の映像がまざまざと思い浮かぶ。