【天使の片翼】
あれは確か、4つか5つの時だろうか。
『大人がいないときに木登りをしてはいけませんよ』
それは、おそらくリリティスから受けた注意。
言われた事を忘れていたのか、それとも、自分にもできると過信していたのか。
今となっては記憶があいまいだが、とにかくファラは大人の目を盗んで木によじ登ろうとしたのだ。
エリシオンがひょいひょいと木に登る姿に、大きな憧れを抱いていたファラにとって、
それはどうしてもやってみたいことの一つだった。
だが、不幸にも途中で掴んだ枝が折れて、ファラは転落した。
それを下で眺めていたソランは、とっさにファラを受け止めようと手を伸ばした。
一瞬のことだったに違いない。
気づけば、ソランの顎にファラが握っていた枝が刺さり、彼は大怪我をした。
ファラは恐ろしくて大泣きした。
ソランが死んでしまうのではないかということもあったが、
そうなった原因が、言いつけを破った自分にあるということをわかっていたから。
けれどソランは、ファラが木登りした事を決して誰にも言わなかった。
自分が転んで枝を刺してしまったのだと主張したのだ。
大騒ぎになったが、ソランはファラを庇った事をついに誰にも話さなかった。