【天使の片翼】
冷たい風がそっと素肌に触れて、ファラは視線を上げた。
昼間空気を入れ替えたまま、どこかの窓が開いているのかもしれない。
立ち上がったファラは、自分の右手にかすかに感じた体温に動きを止めた。
「ファ、ラ」
ソランの左手が、ファラの指を力なく捕らえている。
「ソラン!気がついたのね。待ってて。すぐにルシルを呼んで来るから。
今、あなたの着替えを取りに行ってるの。そうだ、お医者様にも知らせなきゃ」
駆け出しそうな勢いのファラを、ソランの声が引き止める。
「ファラ・・・」
「何?あ、お水?」
ファラは近くにあった水差しから水を汲むと、ソランの枕元に置いた。
ソランの首に腕を差し入れて顔を起こすと、その口に水を含ませる。
「大丈夫?」
ソランはわずかに頷いた。
水を飲むだけで、体中の力を総動員した。
寝台にくくりつけられたように体が動かせず、自分のものではないみたいだ。
しばらくしてから、しびれたように痛みが全身を貫いて、ソランはうめいた。