【天使の片翼】
えんえんと一晩中泣き続けるのではないかと思うほど、ファラは寝台にへばりついたまま肩を震わせている。
毛布に吸収されているから、たいした音は漏れていないが、
そろそろ誰かが気づきそうなものだ、とソランが思い始めた頃、ふっとファラの声がやんだ。
と思ったら、スースーと、規則正しい呼吸音が聞こえてくる。
「ファラ?」
・・眠ったのか。
泣き腫らした目をしたファラを見て、ソランは胸が痛んだ。
自分が気を失ってから、多分ずっと傍につきっきりだったのだろう。
泣かせたのは、自分。
ふいに、ソランの頭にカルレインの言葉が確かな意味を持って現れた。
『自分の命が、自分だけのものだなどとうぬぼれるな』
命に代えてもファラを助け出すといったソランにたいして、カルレインは命を懸けるな、と言った。
その真意を、たった今ソランは手に入れた気がした。
・・ファラを残して、簡単に死んだりしてはファラを守る騎士として失格だよな。
ファラの体から伝わる熱が、生きている事を教えてくれる。
もしも自分が死んでいれば、ファラはこうして、毎日泣き暮らしていただろう。
もっとも幸せを願う相手の笑顔を、自分が奪うことになっていたかもしれない。