【天使の片翼】
ファラが、やっとのことで父親離れをしてくれた。
最初の頃は、たびたび自分に会いに来るファラに浮かれていたソランだったが。
・・まさか、カルレイン様の方がファラにべったりだとは。
今までは護衛だといって二人きりになることもたびたびあったのに、
ここ何ヶ月も、そんな状況になったためしがない。
二人の間で問題になるのは、身分の差を除けば、ファラの父親至上主義だと思っていたソランだが。
実は親離れなんて時とともにあっさりとできてしまう話で、
実際に頭が痛いのは、親が子離れできないときなのだということが、身にしみてわかった。
ファラの後ろをとぼとぼとついていくと、窓の上から声が降ってきた。
「その、ごめんなさいね。ソラン」
澄んだ声の持ち主は、カルレインの妻であるリリティス。
夫の意地悪に気づいているのだろう。
気の毒そうな顔で自分を眺めていることが、余計に胸に突き刺さる。
ぺこりと頭を下げると、馬車の扉を開けてファラとカリナを中へと入れた。
当然その後ろには、危険から王女たちを守る、という使命を果たすため、
大勢の兵士たちが付き従う。
どんな種類の“危険”にも、きっと俊敏な動きを見せるに違いない。
例えば、幼馴染が肩を抱き寄せようとした、とか。
ソランは恨めしそうに彼らを見つめた。