【天使の片翼】
衣からわずかにのぞく人差し指の先には、白い薔薇をかたどった美しい髪飾り。
「お、奥さん、お目が高いね。
それは、ホウト国原産のバサニ石でできた髪飾りだよ。
別名を砂漠の薔薇っていうんだ。白いのは貴重品なんだよ!」
「砂漠の薔薇・・・」
上客を捕まえたとばかりに満面の笑みを浮かべる商人と反対に、
ほんの一瞬、ファラの顔が曇ったのをソランは見逃さなかった。
「行きましょう。あちらにも面白そうな店がありますよ」
表向き、カナンとホウトの関係は良好さを保っている。
隊商の道もふさがれることはなく、ホウト国の店が立っていても不思議ではない。
シドのことを思い出しているのがわかったので、ソランはなおさら早くこの場からファラを去らせたかった。
いまだ髪飾りに視線を残すファラの背中を押すように強引に歩を進めると、
突然商人の日に焼けた太い腕がソランへと伸びた。
「ちょっと、旦那さん!
あんた、奥さんに贈り物の一つもしてやらない気かい?
たまには綺麗な飾りでも贈ってやらないと、愛想つかされるよ!
子どもも一人じゃ可愛そうだ。兄弟作ってやらないとな?」