【天使の片翼】
なんだか微妙に会話がかみ合っていない気がする、と考えて、ソランはやっと商人の誤解に気づいた。
ファラの護衛をしている他の兵士たちは、店の邪魔になるからというファラの命令により、
人ごみにまぎれて、少し離れたところから警戒している。
だから、傍目には男女二人と子ども、といった構図に見えるのだ。
「違う!僕は、旦那じゃ」
ソランの否定は、商人の威勢のよい声にかき消された。
「ほらほら奥さんも!こういうときにねだっておかないと。
毎日子育てばっかりでおしゃれしないと、旦那に別の女ができちゃうよ!」
一拍遅れて“奥さん”に反応したファラの頬に朱がさした。
最初に言われたときは、たんなる呼びかけだと思っていたのだが、
どうやらソランが抱いているカリナのことを、二人の子どもだと思っているらしい。
「ええと、いらないです」
「どうして?こんな見事なものはちょっと他では手に入らないよ?」
「いえ、持ってるんです」
「え?」
ファラはソランの手を取るとぽかんと口を開けた商人の前を通り過ぎた。
「ファラ?」
ソランの肩に抱かれたカリナが、上下に揺れながら小さくなっていく商人に向かって微笑んだ。