【天使の片翼】
辺りが、一瞬で凍り付いてしまったようにしんと静まり返る。
一番最初に正気を取り戻したのは、髪飾りを売った店の商人だった。
「おお~!!なんだか、こっちの方が照れちまうような大胆告白だな。
夫婦かと思ったら違ってたんだな。
ほら、お嬢ちゃん!ちゃんと返事してやんな!」
ファラの背中が、肉付きのよい商人の掌でぐいと押し出される。
ソランとの間に距離がなくなった構図に、周囲の観衆がヒュウ~と口笛を吹いて雰囲気を盛り上げた。
・・な、な、何を言ってるのよ!
理解を拒んでいた頭が正常に動き出す。
熟れ過ぎたトマトのような顔になったファラのすぐ目の前には、真剣な目をしたソラン。
からかっているわけではないらしいと悟るが、ここが人前であるということもしっかりと認識できてしまい、尋常な恥ずかしさではない。
「ソ、ソラン!こんな大勢の人前で、なんてこと言うのよ!」
助けを求めたくて、ソランにだけに聞こえるように、そっと耳打ちした。
けれど、返ってきたのは。
「返事は?」
心を震わせるような、ソランの低い声。