【天使の片翼】
「へ、返事って言われても」
煮え切らないファラの態度に、周りの観客たちが無責任な雑音をあげる。
すなわち、
『ほら、嫌いなら嫌いって、すっぱり振ってやんなよ』
『いやいや、ちょっとでも気があるんなら、とりあえず頷いとけよ。捨てるのはいつでもできる』
『あの男の子、ちょっと格好良いよね。もし振られたら私が慰めてあげようかしら』
などなどだ。
まさか、この国の王女だなどと誰も気づいていないのだろう。
若い男女の色恋に、言いたい放題の言葉を投げてくる。
そんな人々を見渡しておろおろするファラを見て、珍しくソランが怒鳴った。
「うるさい!!皆、静かにしてくれ!」
再び、水を打ったような静けさがその場を支配する。
ファラの姿を見失っていた兵士たちが騒ぎに気づいて、たくさんの人の体を押しのけ無理やり近づいてくる。
それに気づいたソランが、吐息を落とした。
「ごめん、ファラ。こんなやり方卑怯だったね」
ファラの手に髪飾りを乗せると、ソランはさびしそうに微笑んだ。
「嫌な思いをさせたお詫びだ。僕はカリナ様を連れて先に帰るから、ファラはもう少し楽しんでおいで」