【天使の片翼】
ファラの腕から奪うようにカリナを抱き上げると、ソランは俯いたままもと来た道を歩き出した。
ソランに道を譲るようにして、人垣が二つに割れていく。
明日から気まずくなりそうだ、などと考える冷静な自分がいて、ソランは自嘲した。
人間というのはどうしてこうも欲深いのか。
ファラの結婚が決まったと聞いたときは、傍にいて見守るだけでよいと思ったはずなのに。
恋敵がいなくなって脈がありそうだと思ったとたん、自分の存在を主張するなんて。
・・好きだと言われて調子に乗ったりして、馬鹿みたいだな。
あの時聞いた告白は、死にかけた自分への同情だったのだろう。
カルレインの笑い声が聞こえてきそうだ。
それみたことか、と。
果てしなく落ち込みそうになった時、突然、ソラン!と呼び止められた。
聞き間違えるはずのないその声は、空耳なのだろうか。
立ち止まったまま振り返る事を躊躇していると、声の主が自分の目の前に現れた。
そのまま、顔の両側に細い腕が伸びてきたかと思うと。
・・え?
気が動転して夢でも見ているのか、とソランは思った。